柿の木日記・
アウトリーチプログラム

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2018年5月30日(水)

【インタビュー】近藤良平さん(子どものためのダンスワークショップ講師)

「子どものためのワークショップ2018 ダンスワークショップ」の講師:近藤良平さん(コンドルズ主宰、振付家、ダンサー)に、ご自身の小中校時代のことやワークショップの内容などについてお話をうかがいました。

Q:小学生の頃はどんな風に過ごしていましたか。

A:小学生の頃は南米で主に過ごしていました。アルゼンチンのブエノスアイレスの日本人学校に通っていたのですが、小学1年生から中学3年生まで合わせても70~80人程度しかおらず、1学年7~8人位の規模でした。イメージ的には日本のどこか村の学校みたいな感じです。いい意味で中学3年生までが一緒になって遊んでいた気がします。しかも南米なのでほぼサッカーしかやっていませんでした。僕もそうだし、女の子もみんなサッカーをやっていました。サッカー中心の小学生だった気がします。

ダンスでアルゼンチンと言えばタンゴですが、それは大人の世界のものでした。ですから正直ダンスは身近では無かったです。でも、音楽は身近でした。特にフォルクローレと呼ばれる日本で言えば民族音楽のような音楽ですが、有名な曲では「コンドルは飛んでいく」のような曲を聞いていて、僕自身も楽器を弾いていましたし、皆で弾いていました。かなり熱心にやっていました。

Q:近藤さんの作品にはそのフォルクローレの世界観が感じられますが、やはり影響を与えているのでしょうか。

A:南米の時の音楽、楽器も含めてですが、なんやかんや自分の中に根付いていて好きなんですよね。だから、影響はかなり受けています。その後中学生に入り日本に帰国すると時代も変わってMTV(世界最大級の音楽とエンタテイメントの番組)などが出てきて、そういう番組をたくさん視ていましたが、小学校時代まではそういうことが全く無かったですね。どちらかと言うと小学生までは生活と一体化している、生活に根付いた音楽に親しんでいて、それは今でも馴染みがあり好きですね。その音楽を聴いているだけで泣けてくるし、かっこいいと思います。特に細かいことを言うと、フォルクローレはアンデスの山々といった大きな風景、情緒豊かな自然を感じる音楽が多いので、広い気持ちになっていきます。日本の演歌とは違うんですが、自分の中でしっくりくると言うか、何かいいんですよね。心に沁みてくる音楽が多いんですよね。

Q:小学生の頃熱心に楽器を弾いていたということでしたが、具体的にどんな楽器を弾かれていたんですか。

A:一番大事にしていたのは、「チャランゴ」という楽器です。大きさはウクレレぐらいで、当時はアルマジロの皮が張ってありました。その頃は、ソロバンさえも楽器にしか見えなくてジャラジャラ弾いて授業中よく怒られていました(笑)。でもそのぐらいずっと弾いていたんです。

Q:日本に帰国した時ギャップがかなりあったのではないでしょうか。中学校に馴染めましたか。

A:まあ、馴染まないですよね。馴染まないというか、急に学生服になりましたし、しきたりとルールが多いな、と言うのを感じていました。学校に行くまでの経路が決まっていたり、部活に入ると校庭を何周走らなければならないとか、毎日毎日厳しいな・・・と感じていました。

Q:中学生の時部活は入っていたんですか。また、どんな風に過ごしていましたか。

A:はい、サッカー部に入っていました。サッカーに対してはプライドと自信があったので、そこにアイデンティティがあったのかもしれません。南米でずっとサッカーをやっていたので、これだけは負けない!と言う思いはありました。しかも、中学校の頃にサッカーが上手いとモテルじゃないですか。とは言え、それだけではなく・・・。それこそ写真が好きだったり、中学校の時に既に映画も撮っていました。スポーツ系と文化系両方を跨いで好きなことをしていました。

Q:長くダンスに携わっていらっしゃいますが、近藤さんに影響を与えた方はいらっしゃいますか。

A:僕がちゃんとダンスを始めたのは大学に入ってからですが、中学校の時は完全にマイケル・ジャクソンでした。絶対にマイケル・ジャクソンでした。彼は何だか猿みたいなんです。好きなように踊っているんです。自由に踊っているのにキレがあったから「かっこいいな」と思っていました。同じ時期にブレイクダンスが始まるんですが、ブレイクダンスをやる人はブレイクダンスをやろうとします。でもマイケル・ジャクソンは型にはまらず自由な感じだったので、「すごいな」と思っていました。

日本に帰国してからはMTVやミュージックビデオが大好きでそれを必ず視ていました。そこには色んなダンスが出てきていたし、映画もかなり見ていて、1980年代にホワイトナイツ(1985年アメリカ合衆国映画)の中に出てくるミハイル・バリシニコフのバレエを見て、それがものすごくかっこよくて、バリシニコフごっこをやっていました。また、昔のフレッド・アステアやジーン・ケリーのタップに憧れを抱いていました。中学の時はそれこそ名画座に2本立て、3本立てをよく見に行っていたものです。

図書館に行くと映画に関する本もたくさんあって、例えば「第三の男」などの本を読みこんで調べていました。そのくらい映画が好きでした。もはやダンスとはあまり関係ないんですが。でも、その頃に見た映画や読んだ本は今の作品作りにすごく影響を与えています。と言うのも、その頃の映画音楽は非常にインストゥルメンタルなんです。「ベン・ハー」や「風と共に去りぬ」のように音楽と共に映像がバーッと来て感動する、その画と舞台が僕の中では同じなんです。音楽が鳴ってそこに繰り広げられる色んなことが。ダンスを始めた頃、舞台作りは映画に似ていると感じ、その頃の映画の記憶がすごく蘇ってきました。その時にたくさん舞台を見に行ったというわけではなく、映画を見て広がる感じが面白くて夢中になっていました。

Q:年齢を重ねていく中で、作品は変化してきたのでしょうか。

A:実はそれは自分でもよく分からないんです。20代の頃は、設計図の無いフォルムを切り取って無理矢理作ってこれです、と見せていたことがほとんどだった気がします。正解が分からないというか。今の方がたくさん積み重ねてきた分、どういう物を作りたいかということは前よりも見えやすくなった気がします。それくらいのレベルの差しかないと思います。何が変わったか、と言われても言い辛い部分があるかもしれません。

三谷幸喜さんは「私は喜劇しか書かない」と公言されていますが、僕にはそのはっきりしたものが何なのか分からない。ただ、今はどちらかと言うと喜劇とは言わないけれど楽しいと思われるものを作っています。裏を返せば悲劇を作る自信もないですし、まだその欲望がありません。僕の中では何を描いても、面白かったり愉快であったりする方向性になっていきます。もちろんこの10年が経ったらどうなるかは分かりませんが。

「今回こんな題材をやります」と言うハッキリしたものは無いので、今はそういう(楽しい)部分が大きいと思います。ただ、作品を作る上で色々試すことはあります。舞台装置に色をたくさん使ったり、舞台装置を全然使わなかったり。セッションハウス(東京神楽坂にあるアートのための総合的空間)などで作るときはピアノだけで、完全にピアノに寄る作品ですし。それは喜劇・悲劇ではなく、ピアノ側に、作曲側に寄る感じです。

Q:今年2回目になる夏のワークショップですが、参加者とどんな風に時間を過ごし、どんな作品を作っていきたいですか。

A:正直、集まってくる子どもたちによるところが大きいです。とにかくダンスがしたい!と思う子どももいるかもしれないし、ただ悪ふざけをしに来た子どももいるかもしれない。ただ確かに色んなパターンはありますが、子どもたちにお題を出すと大人では想像もつかないことで盛り上がったりするじゃないですか。最初のエッセンスは僕が出して、そのあとの盛り上がりを大事にするという図式はとても大切だと思っています。

当たり前だし必要なのですが、学校では必ずルールの中で行動しなければいけません。でも、ワークショップと言うくくりはあるかもしれませんが「今この場所では何を踊ってもいいんだよ」というその空間はとても贅沢なことだと思うんです。ただし、ここにいる時はいいんだけど、ここから出たらちゃんと守れよ!とも言いたいんですが。そういうことを自覚して一緒に出来たらすごく楽しいと思います。使い分けじゃないんですけど、自覚することで特別な場所が出来るんじゃないかなと思っています。

訳のわからない感じのあの年齢の子どもたちも、年月が過ぎるとまた見に来てくれたりするんです。ホント不思議なんですが。時には本人たちが発表する場に誘われたりもします。

Q:最後に参加者へ一言メッセージをお願いします。

A:新しい友だちも出来るだろうし、今頭の柔らかいうちに色々体験すると、更に大人になった時にきっと自分がやってきたことを活かせるんじゃないかなと思います。夏の勢いに乗って、自分がやりたかったら来てください。お母さんに言われても来てください。要は皆来てください。身体を動かすことは体験するに限ります。

パーシモンホールもこのワークショップは、この時、この場所、ここで出会った友人であったり仲間であったりを大切にし、それを大いに楽しんでほしいと思っています。自由に楽しくやってもらえると有りがたいです。本日はありがとうございました。ワークショップ楽しみにしています。

(2018/5/19 さいたま芸術劇場にて 聞き手:事業課 濵)

 

<ワークショップ成果発表会>
【日時】2018年7月27日(金)11:45開場/12:00開演/12:40終演(予定)
【会場】めぐろパーシモンホール 小ホール
【出演】公募による小学4年生から中学3年生までのワークショップ参加者
【料金】入場無料(直接会場にお越しください)

主催:公益財団法人目黒区芸術文化振興財団(めぐろパーシモンホール)
協賛:公益財団法人北野生涯教育振興会、アペックス株式会社